糖質制限食
まず糖質制限食についてみてみます。
初期には1日20 gまで糖質摂取を制限し、その後は1日120 gまで糖質摂取を緩和するという糖質制限法があり、糖質制限食は血糖、脂質、体重、血圧に対しても有意な改善をもたらしており、メタボリックシンドロームや糖尿病治療食として適切であることが示されました。
日本人を対象とした試験では日本人2型糖尿病患者を対象に無作為に
①緩やかな糖質制限
②エネルギー制限に割り付けた研究において、1食20 g以上かつ40 g以下という形で、1食ごとの制限としました。これにより毎食後の血糖値上昇を抑制することができるようにしました。また、1日に糖質10 gまでの間食の摂取を推奨した結果、1日の糖質摂取は70~130 gを推奨したこととなります。これは、食の楽しみを確保するためで緩やかな糖質制限により、血糖や中性脂肪の改善が得られました。この研究では体重についての変化は生じませんでした。
しかし、別途で上記指導を受けた200人の体重の変化を解析すると、肥満の程度が重い人ほどしっかりした体重の減量があり、普通の体格の人では体重の変化はなく、やせている人に至っては体重(筋肉)の増加が生じていました。
また、ほかの報告からも1日130 gの糖質制限指導がエネルギー制限よりも血糖値や体重の改善に優れるとの報告がなされています。
このように一つ一つの臨床試験で採用されている糖質制限食の内容には若干の相違があるが極端な糖質制限食と緩やかな糖質制限食とで体重の減量効果に差異がなく、介入後の経過観察では緩やかな糖質制限食のほうが減量効果を保持していたという報告があります。
糖質の量を管理する糖質制限食の医学的根拠が集積されるに伴い、糖質の質を管理する低Glycemic Index(GI)食にも注目が集まるようになりましたがGIはあくまでも複数の人の平均値をとったものであり、必ずしもすべての被検者でその数値に従って血糖上昇が抑制されるわけではありません。また、低GIの食品であっても大量に摂取すれば血糖はその分上昇してしまいます。
糖質の量と質のいずれが心血管リスクの管理に有用であるかを検証した試験では糖質は量のほうが大切であることが示されています。
実際、糖質制限食と低GIのカロリー制限食を比較した研究では、統計学的に有意とは言い切れないものの糖質制限食のほうが血糖管理に有効であったとされています。
さらに、果糖は直接的な血糖上昇の影響は小さく、GIは20程度(ブドウ糖を100として)であるが、その一方で果糖ばかりを摂取するようにした群とブドウ糖ばかりを摂取するようにした群では、3か月後において果糖ばかりを摂取するようにした群のほうが耐糖能障害が強かった。この理由として、果糖摂取群では、脂肪肝が強く、内臓脂肪も蓄積していて、インスリンによる血糖低下作用に対する抵抗性が強くなっていたことが挙げられており、また、果糖は脳の報酬系に働くため、依存性が生じやすいものと考えられています。
これより、GIばかりに頼る考え方は、食後高血糖を抑制できず、酸化ストレスや糖化反応を止められないがある検討によると、低GI食が血糖管理に有効であることも知られています。量での糖質摂取の管理が困難な場合は質を考えることも有用となります。
また食後高血糖抑制作用を最大限に発揮させるための食事法として食べ順食があります。当初は、野菜を最初に食べることの重要性が言われたが、その後、魚や肉にも同様の効果が存在することが示され、糖質を最後に食べることこそが重要であることが認識されるようになりました。
ロカボについて
ロカボの定義は、1食あたり糖質摂取を20 g~40 gとし、それとは別に間食で糖質を1日に10 gまで摂取し、結果として1日の糖質摂取を70 g~130 gとするものです。簡易的には現在の日本人の糖質摂取量(1日260~300 g)を半分弱にするというものです。
ロカボでは糖質が30%、脂質が40~45%、蛋白が25~30%というバランスになります。
現在、日本人は1日の2,000 kcal程度のエネルギーを摂取しており、食事摂取基準ではそのうち50~65%を糖質(炭水化物)、20~30%を脂質、13~20% を蛋白で摂取することが適正なバランスとされているが前述のようにこの比率には医学的根拠はなく、現在の日本人の糖質摂取比率を半分程度にするのがロカボです。
なお、この低糖質食にした際に脂質と蛋白の比率をどの程度にすればよいのかについての研究は不足しており、低糖質高脂肪食が良いとするものや低糖質高蛋白食がよいとしているものもあります。また食品交換表などを参照してⅠ群を少なくし、Ⅱ~Ⅳ群をバランスよく摂取していくことも重要です。
ロカボという食べ方はおそらくデメリットのないものでメリットは完全にロカボの定義に入らないと全く得られないというものではなく糖質制限と血糖改善の効果は線形相関であるため、1食100 g摂っていた糖質を60 gにすれば、その分の効果を期待できます。
一方で、1食20 g以下の極端な糖質制限食にしたところでメリットが増加する保証はなく、医学的にデメリットが生じる可能性があります。また、医学的なデメリット以上に、1食20 g以下にしようとすると野菜の中でも食べられる食品が限定され、生活の質が落ちてしまう可能性が高くなります。
他に身体活動量は筋肉のインスリン感受性や膵臓のインスリン分泌能力にも相関しているとの報告があるため、より多くの糖質を摂取したい人は身体活動量を増加させることや、筋肉量を増やすと糖質の処理能力が高まり、さらに多くの糖質を適正に摂取することができる。
一方で、身体活動量が非常に多く糖質制限を実施している人の筋肉内グリコーゲン量と高糖質食(カーボローディング)をしている人との差異はなかったとの報告もあり、運動をしているからという理由で糖質摂取を増やさなくてはいけないということではないと言えます。
ロカボを遂行する上で大切なことはストイックに糖質制限することでなく幸せで楽しい食生活を継続することにあると感じます。
引用:Glycative Stress Research 2018; 5 (1): 001-011
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