低糖質

低糖質ダイエット、ロカボ、ローカーボダイエットについて考える①

最近よく耳にする「ロカボ」という言葉は一般社団法人 食・楽・健康協会の登録商標になります。また、「ローカーボ」は低炭水化物と言い、英語ではlow-carbohydrateで表します。さらにグリセミックインデックス(Glycemic Index:GI)の低い食品を摂取する低GI食も注目されており食後の血糖上昇度を示す指標とされています。これは食品ごとに値が定められておりGI値が低い食品は血糖の上昇を緩やかにします。
近年人々の健康意識は非常に高く、特にタンパク質・脂質・糖質について意識している人も多く感じます。この中でも特に糖質に関してはこれまでよりも注目度は非常に高くなっています。
まず制限食についてみていきます。

エネルギー制限食

エネルギー制限食はサルの実験において年齢に関連した死を有意に減少させ、糖尿病・心血管疾患・がん・認知症を予防したが、糖尿病患者を対象とした試験ではエネルギー制限食を実施した結果、男性の大腿骨頸部骨密度が対照群に対して有意に低下した。
つまりエネルギー制限食による寿命の延長効果は期待できなかったということがわかります。また、元来のエネルギー摂取量の75%にエネルギー摂取を制限した健常者において骨密度の低下、筋肉量の減少、治療抵抗性の貧血などの問題が生じています。
エネルギー制限食は、むしろ骨粗鬆症や筋肉の萎縮などで寝たきりになりやすくなるロコモティブシンドロームの促進の可能性があるため、あまり有益ではないと考えられます。

脂肪制限食

脂質制限食により血糖が改善されるということはなく、メタ解析においても脂質制限食により心血管死や全死亡が減少されるということもない。それどころか、ω-3多価不飽和脂肪酸のサプリメントにより心血管死、全死亡を予防できる研究結果が報告され、さらには植物性油脂(ナッツ30 g/日もしくはエクストラ・バージン・オリーブ油1 L/週)の付加により心血管イベントを予防できるという研究結果が報告され、脂質制限は不要であるとの概念が定着するようになりました。
動物性油脂(飽和脂肪酸)についてもそれを植物性油脂に変更することにより心血管イベントや死亡率が増加するとのオーストラリアや米国の研究結果があり、特に日本人においては飽和脂肪酸の摂取量が多いほど脳卒中から保護されるとのデータが複数存在し、飽和脂肪酸も避ける必要はなさそうです。
よって、現在、避けるべき脂質として挙げられるのは、古くなった脂質(過酸化脂質)と人工的な油脂(トランス脂肪酸)のみであり、それら以外の脂肪は良い面もあるため制限する必要はないと考えられます。

タンパク制限食

蛋白負荷が腎毒性をもつことは報告があり、1980年代までに様々な動物実験で高蛋白食の負荷が腎毒性を示したことから、腎不全に対する低蛋白食治療の概念が成立しました。
しかし、バイアスや交絡因子を除外できる無作為比較試験にて蛋白制限食の有効性を確認しようとしたMDRD試験においては、腎機能正常者のみならず腎機能低下者においても有意な腎機能の保護効果は認められず、さらにその後のフォローアップにより厳格な蛋白制限食により死亡率が有意に上昇することが報告されています。
このMDRD試験のフォローアップ試験が報告された後、アメリカ糖尿病学会は蛋白制限食の腎機能保護に対する有効性を否定するようになったため、タンパク質についても特に制限する必要はないと考えられます。

糖質制限食

ここまででエネルギー制限食、脂肪制限食、タンパク制限食についてみてきましたが、いずれも制限することで有益となる情報は得られていないため、これら栄養素の制限は必要ないと捉えることができます。

一般には「炭水化物(糖質)は全エネルギー比率で50~65%、蛋白質は13~20%、脂質は20~30%」といった三大栄養素比率が健康に良いとされており、これが適正であると記載している文献は今でも数多あります。
しかし、この比率は、基礎代謝量に身体活動係数を乗じてエネルギー必要量を求め、必須アミノ酸から最低限必要な蛋白質量を設定し、必須脂肪酸から最低限必要な脂質量を設定して、残りを炭水化物で摂取すると仮定したものを表しています。
現代社会においては上記比率が理想的な栄養比率であるかは不明であるため、エビデンスを重ねていく必要があります。

これより適正な糖質摂取を量の点から考え直そうとしているのが糖質制限食です。
糖質制限食は、20世紀においては生活習慣病の治療法として民間療法的に普及しながら批判されており、その批判の根拠は科学的根拠の不足、脂質摂取過剰による心血管リスクの増加でした。

脂質制限食が心血管疾患のリスクを低減しないことがはっきりとわかり、糖質制限食の科学的根拠が積み重ねられるようになったため、こうした批判は消失したわけです。
1型糖尿病を除くと、食後高血糖に影響する栄養素は糖質だけであり、蛋白質、油脂、食物繊維の摂取は食後高血糖を是正することが知られています。
すなわち、糖質を控え、蛋白質、油脂、食物繊維の摂取を増やそうとすることは、より効率よく食後高血糖を是正し、糖化ストレスを回避する食事法といえます。
糖質制限食は糖化ストレスが生じにくくなり、酸化ストレスの低減、アンチエイジング効果が得られると期待されています。

糖質制限食のメリットとしては、加齢に伴う全身の変化により生じる心血管イベントや認知機能の低下、しわの形成、骨の変性を抑制すること挙げられます。糖質制限により全身の糖化ストレスや酸化ストレスを抑制することは、メタボリックシンドロームの予防・治療だけでなく、ロコモティブシンドローム(運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態)の予防にもなります。

 

引用:Glycative Stress Research 2018; 5 (1): 001-011

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